ニッケルめっきは、自動車部品から電子機器、装飾品に至るまで、あらゆる産業分野で利用されている重要な表面処理技術です。特に防食性、装飾性、接合性の向上といった性能を付与する手段として重宝されています。
この記事では、ニッケルめっきの基本的な用途とともに、代表的なめっき液(ワット浴、スルファミン酸浴)や、多層構造による自動車外装用途、さらに硬度や延性といった機械的特性に関してもわかりやすく解説します。
ニッケルは鉄族に属する金属で、強靭で加工しやすく、耐食性・密着性・装飾性にも優れた特性を持ちます。そのため、単なる金属保護だけでなく、美観を保つ目的でも多用されています。
特に自動車やOA機器、医療部品などの外装部品では、防錆と見た目の美しさを兼ね備えた表面処理として採用され、さらにその上にクロムめっきを施すことで、耐久性を強化する構造が一般的です。
最も汎用的なニッケルめっき液が「ワット浴」と呼ばれるもので、光沢ニッケルめっきを施す際に広く使用されます。ワット浴では、硫酸ニッケルを主成分とし、塩化ニッケルやホウ酸を加えることで、以下のような機能を持たせています。
光沢剤として「1次光沢剤(サッカリン等)」と「2次光沢剤(ブチンジオールなど)」を併用することで、内部応力を抑えながら滑らかな仕上がりを実現します。ピット防止剤の添加により表面欠陥も抑制され、装飾性や密着性を両立できるのが特徴です。
電鋳用途やCDスタンパーのような高密着性と低応力が求められるケースでは、「スルファミン酸浴」が使用されます。この浴はスルファミン酸をニッケル源とするめっき液で、次のような特長があります。
ニッケルめっきの硬さは、使用するめっき液や添加剤によって大きく異なります。
たとえば、ワット浴による無光沢ニッケルは、ビッカース硬度(HV)でおよそ300程度とされ、比較的やわらかく延性に富んでいるため、曲げ加工や成形用途に適しています。
一方、光沢ニッケルは、光沢剤などの添加により内部応力が高まり、硬さはHV400以上となることが多く、耐摩耗性や外観性を求められる部位に適しています。
設計段階では、求める機械的性質(硬さ・引張応力・延性)に応じて、浴の種類・条件・添加剤の選定を行うことが重要です。
また、引張応力の影響でめっき膜が反る・割れるといった問題を回避するためには、内部応力の低い浴(例:スルファミン酸浴など)を選択することでトラブルを未然に防ぐことも可能です。
自動車の外装部品は、風雨、塩害、紫外線など過酷な環境に晒されるため、長期にわたる防食性と外観の美しさが両立される必要があります。これを実現するために開発されたのが、多層ニッケルめっき構造(Duplex Nickel Plating)です。
この構造では、異なる電位を持つ2種類のニッケル層(半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層)を連続的に重ねることで、腐食進行を電気化学的に制御します。
この構造では、腐食孔が光沢ニッケル層を通じて露出した場合でも、その下の半光沢ニッケル層が先に腐食するため、母材の鉄鋼や亜鉛ダイキャストが守られます。これは、電気化学的な犠牲防食作用によるものです。
つまり:
ということになります。この仕組みにより、単層構造と比べて最大4~6倍の耐食寿命を得られるとする報告もあります。
用途と目的に応じて、めっき液・構造・添加剤を適切に選定することが、安定した品質と性能確保の鍵となります。
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