ニッケルめっきの特徴と種類

ニッケルめっきとは

ニッケルめっきは、自動車部品から電子機器、装飾品に至るまで、あらゆる産業分野で利用されている重要な表面処理技術です。特に防食性装飾性接合性の向上といった性能を付与する手段として重宝されています。

この記事では、ニッケルめっきの基本的な用途とともに、代表的なめっき液(ワット浴、スルファミン酸浴)や、多層構造による自動車外装用途、さらに硬度延性といった機械的特性に関してもわかりやすく解説します。

ニッケルめっきの特徴と用途

ニッケルが選ばれる理由

ニッケルは鉄族に属する金属で、強靭で加工しやすく、耐食性密着性装飾性にも優れた特性を持ちます。そのため、単なる金属保護だけでなく、美観を保つ目的でも多用されています。

特に自動車やOA機器、医療部品などの外装部品では、防錆見た目の美しさを兼ね備えた表面処理として採用され、さらにその上にクロムめっきを施すことで、耐久性を強化する構造が一般的です。

珪ニッケル鉱

主な用途と使用例

  • 防錆めっき:自動車のクリップや医療機器における表面保護
  • 装飾めっき:光沢性を活かし、アクセサリや化粧品容器などに使用
  • 電鋳用下地:CD・DVDスタンパー、ホログラム製造に使われる金型用途
  • 多層めっき:外装部品にて高耐食性構造を実現(自動車部品など)

代表的なニッケルめっき液とその特徴

ワット浴(硫酸ニッケル系)

最も汎用的なニッケルめっき液「ワット浴」と呼ばれるもので、光沢ニッケルめっきを施す際に広く使用されます。ワット浴では、硫酸ニッケルを主成分とし、塩化ニッケルホウ酸を加えることで、以下のような機能を持たせています。

  • 電着効率が高く均一にめっきしやすい
  • 光沢剤を加えることで装飾性も向上
  • pHや温度管理により、めっき膜の性質を調整可能

光沢剤として「1次光沢剤(サッカリン等)」と「2次光沢剤(ブチンジオールなど)」を併用することで、内部応力を抑えながら滑らかな仕上がりを実現します。ピット防止剤の添加により表面欠陥も抑制され、装飾性密着性を両立できるのが特徴です。

スルファミン酸浴(スルファミン酸ニッケル系)

電鋳用途やCDスタンパーのような高密着性低応力が求められるケースでは、「スルファミン酸浴」が使用されます。この浴はスルファミン酸ニッケル源とするめっき液で、次のような特長があります。

  • 低内部応力のめっき膜を形成できる
  • 高い電流密度でも安定しためっきが可能
  • 厚膜めっきでもクラックや剥離が生じにくい

ニッケルめっきの機械的特性と応用設計

硬度と延性の違い

ニッケルめっきの硬さは、使用するめっき液添加剤によって大きく異なります。

たとえば、ワット浴による無光沢ニッケルは、ビッカース硬度(HV)でおよそ300程度とされ、比較的やわらかく延性に富んでいるため、曲げ加工や成形用途に適しています。

一方、光沢ニッケルは、光沢剤などの添加により内部応力が高まり硬さはHV400以上となることが多く、耐摩耗性外観性を求められる部位に適しています。

設計段階では、求める機械的性質(硬さ・引張応力・延性)に応じて、浴の種類条件添加剤の選定を行うことが重要です。

また、引張応力の影響めっき膜が反る・割れるといった問題を回避するためには、内部応力の低い浴(例:スルファミン酸浴など)を選択することでトラブルを未然に防ぐことも可能です。

自動車外装用に使われる多層ニッケルめっき

自動車の外装部品は、風雨、塩害、紫外線など過酷な環境に晒されるため、長期にわたる防食性と外観の美しさが両立される必要があります。これを実現するために開発されたのが、多層ニッケルめっき構造(Duplex Nickel Plating)です。

この構造では、異なる電位を持つ2種類のニッケル層(半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層)を連続的に重ねることで、腐食進行を電気化学的に制御します。

多層構造の概要

  • 下層:半光沢ニッケル(Semi-bright Ni)
    内部応力が低く、結晶構造が緻密で導電性も高い。標準電位がやや負側で、外部環境からの腐食に対して犠牲陽極として先に溶解しやすい性質を持つ。
  • 上層:光沢ニッケル(Bright Ni)
    光沢剤を含み、外観が美しいが結晶構造が比較的粗く、微細なピンホール(孔食)が発生しやすい。標準電位がやや正側で、半光沢Ni層よりも腐食されにくい。
  • 最上層:クロムめっき(装飾クロム)
    化学的に安定で、反応性が低く、表面を保護する透明な被膜を形成。
ニッケル3層めっき

なぜ耐食性が高まるのか?

この構造では、腐食孔が光沢ニッケル層を通じて露出した場合でも、その下の半光沢ニッケル層が先に腐食するため、母材の鉄鋼や亜鉛ダイキャストが守られます。これは、電気化学的な犠牲防食作用によるものです。

つまり:

  • 腐食電位が異なる層(半光沢Niと光沢Ni)を組み合わせることで、選択的腐食が発生し、下層が「犠牲」となって保護する。
  • 腐食電流が拡散しにくくなるため、腐食孔の進行が抑制され、結果としてめっき層全体の防食性が向上する。

ということになります。この仕組みにより、単層構造と比べて最大4~6倍の耐食寿命を得られるとする報告もあります。

まとめ

  • 高い装飾性が必要な場合:ワット浴+光沢剤の組合せ
  • 内部応力を避けたい場合電鋳スルファミン酸浴
  • 屋外耐食性が求められる部品多層ニッケルめっき構造
  • 機械的強度柔軟性が必要な場合:浴種・添加剤の選定がカギ

用途と目的に応じて、めっき液構造添加剤を適切に選定することが、安定した品質性能確保の鍵となります。

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