合金めっきの電析のしくみと理論 〜正則共析と異常共析を理解する〜

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はじめに

合金めっきは、単一金属めっきでは得られない機能を付与できる魅力的な技術です。 しかし、複数の金属を同時にめっきするためには、各金属の析出条件や挙動を理解することが不可欠です。 ここでは、合金めっきがどのように電気化学的に析出されるのか、 電流−電位曲線の基礎から共析の種類、管理のポイントまでをわかりやすく解説します。

合金めっきの電析とは? 基本的な考え方

めっきとは、金属イオンを含む溶液に電流を流し、カソード極(−極)の表面に金属を析出させる技術です。 電圧を負にかけると、ある電位(可逆電位)から金属イオンの還元反応が起こり、金属が析出します。 可逆電位よりさらに負にすると、析出量が増え、電流も増加します。

このとき、電流と電位の関係を示したものが「電流−電位曲線」です。 この曲線は、金属イオン濃度や温度、かく拌条件などにより形が変わります。

また、実際には金属の析出にはエネルギーが必要で、可逆電位からのズレ(駆動力)を「過電圧」と呼びます。 過電圧があることで、析出速度や膜質、結晶の形態が大きく影響を受けます。

合金めっき電析の分類

合金めっきは、複数の金属が同時に析出するため、どのような順序で析出するかを理解することが重要です。

正則共析

電気化学的に貴(き)な金属が優先的に析出し、浴中の濃度や操作条件に応じて膜組成が決まるタイプです。 一般的な金属の電析理論で理解しやすく、可逆電位に沿った析出が行われます。 例:Cu-Bi、Pb-Sn合金など。

非正則共析・平衡共析

浴組成と膜組成が比例して析出する場合を平衡共析と呼びます。 非正則共析は、電位支配型で貴な金属が一部優先するが、条件で変わるものです。

異常共析

電気化学的には貴でない金属が優先的に析出するタイプです。 水素発生など副反応が関与する場合が多く、析出挙動が複雑になります。

異常共析には以下があります:

  • 変則共析:卑(ひ)な金属が析出物中で濃化する現象(例:Ni-Zn、Fe-Ni系など)
  • 誘起共析:単独では析出しにくい元素が、他の金属との相互作用で析出するもの(例:Ni-P、Ni-W系など)

電流−電位曲線で見る析出のポイント

電流−電位曲線は、めっき浴中の金属イオン濃度や錯化剤、添加剤、pHなど多くの要因で変わります。 金属イオンが析出する際、拡散層の中で濃度が変わり、限界電流密度に達すると析出速度が制限されます。 この限界を超えると膜組成が変わりやすくなります。

過電圧には2種類あります:

  • 濃度過電圧:イオンが電極に届く速度が影響するもの
  • 活性化過電圧:金属イオンが電子を受け取って析出する過程に必要なエネルギー

この過電圧の違いが、めっきの膜組成や結晶構造に影響を与えるため、 条件設定や浴管理では電流密度やかく拌強度を適切に制御することが重要です。

共晶・固溶体・化合物合金の相構造

合金めっきの析出挙動は、合金の相構造によっても異なります。

共晶合金

成分金属がお互いに溶解しにくく、微結晶の混合物として析出します。 代表例:Sn-Zn合金など。

固溶体合金

全組成域で均一に溶解した固溶体を形成します。 析出時には各金属が相互に影響し、可逆電位が変わりやすいのが特徴です。

化合物合金

一定の比率で化合物として析出するタイプです。 成分金属の相互作用が大きく、析出電位が貴側へシフトすることがあります。

また、誘起共析は化合物合金の一例としても説明され、 P、W、Moなど単独では析出しない元素が鉄族金属とともに析出し、非晶質皮膜を形成する場合もあります。

めっき現場で気を付けたい管理のヒント

電析理論は、実際のめっき管理でも重要なヒントになります。

  • 浴組成の管理:金属イオン比や錯化剤の濃度を定期分析する
  • 電流密度の設定:膜厚や組成ムラを防ぐため、品物の形状に合わせて分布を調整する
  • かく拌条件:拡散層の厚さに影響し、析出速度と膜組成を変える
  • pHと温度管理:錯体浴ではpHが変わると析出挙動も大きく変化する

これらのポイントを踏まえることで、安定した品質と高機能な合金めっきを実現できます。

まとめ

合金めっきは、単一金属よりも複雑な電析理論が背景にありますが、 正則共析・異常共析といった分類や、電流−電位曲線の基礎を理解することで、 管理とトラブル防止に役立つ知識となります。 浴条件や添加剤の調整で、必要な性能を引き出せるのが合金めっきの大きな魅力です。

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